懺悔

突然ですが、私には懺悔しなければならないことがあります。
いや、懺悔しなければならないことは山ほどありますね。
今回は、初めてインドに行った時、旅行者に対して非常に申し訳ないことをしてしまった話を一つ。
「私を変えた一言」の続き。初めてのインド旅行でのバラナシの話です。

カルカッタを逃げ出した私は、バラナシに向かいました。
当然のように駅前で幾人ものリキシャーワーラーとバトルを繰り返し、当然のようにぼったくられ、当然のようにわけのわからないゲストハウスに連れて行かれ、当然のようにバトルし、何とかゴドーリヤに着いた時には疲れきっていました。
右も左もわからない初めてのバラナシ。
私は、旅行者によいゲストハウスを教えてもらうことにして、とりあえずダサシュワーメードガートに向かいます。人ごみの中を牛をよけて歩きます。
と、突然、目の前が開けました。ガンジス河。ヒンドゥーの聖なる河。美しいです。
あのぐちゃぐちゃした道が突然開ける瞬間ったら、むちゃくちゃ感動です。
しばらくぼけーっとしてガンジスを眺めた後に旅行者数人から宿の情報を仕入れ、裏道を宿を求めて歩きました。

「はろー。」
声をかけてきたのはインド人の少年。中学生くらいの年齢です。
「日本人いるから、ちょっと来てよ。」
「危なそうなら逃げればいい」と判断し、彼についていきます。で、連れて行かれたところがシルク屋でした。
「あ。こんにちわ。」
本当に日本人が2人いました。彼らは卒業旅行でインドに来たとのことでした。
「ここって、なんなのですか?」
「シルク屋。」
「ふ〜ん。」
「毎日ここで、シルク見て、チャイ飲んでるんだ。今日来たの?」
「えぇ。宿探して歩いてるうちに、ここに呼び込まれたんですよ。」
「ははは、ありがちありがち。」
けっきょくそこのシルク屋が紹介するゲストハウス「ニューヨーギロッジ」に泊ることになりました。よくありがちな、「歩き方」に紹介されたゲストハウスの名前をもじったところです。3人部屋のドミトリーで15ルピーでした。

初めにあった日本人はその翌日に旅立っていましたが、私はシルク屋通いを続けていました。
朝、ガンジスの朝日を拝みながらチャイをすすり、朝食をとり、またガートに行って泳いで、チャイを飲んで、ぶらぶらしてバングラッシー飲むかガンジャをふかして眠る。その単調なサイクルの中で日に1回か2回はシルク屋でぼけーっとしていました。そのシルク屋で、カリーをごちそうになることもよくありました。
余談ですが、そのカリーは絶品でしたね。インド旅行中、カリーがおいしくなくて食事に困っていましたが、ここの食事は絶品でした。うまかったです。
そうこうしているうちに、1週間ほど経ったある日、初めに私に話し掛けたインド人の少年、名前をアルーンと言います、が相談を持ち掛けました。私は快諾しました。

「こんにちは。」
ガートのチャイ屋で1人でガンジスを眺めている学生風の旅行者に声をかけました。彼も退屈していたのでしょう。旅の情報交換をしながら、チャイを飲みます。
しばらく話をしていると、後ろから声がかかりました。アルーンです。
「うちに行こうよ。」
アルーンは私に話し掛けます。
「うん、いいよ。」
私は返事をします。そして、
「今から、シルク屋に行くんですけど、一緒に行きます?」
今知り合ったばかりの日本人を誘います。
「えっ、いいですけど。何しに行くんですか?」
彼は驚きます。そりゃそうでしょう。バラナシと言えばボートとガンジャとシルクにだけは近づくなというのが一般の教えですから。
「シルク、見に行くんですよ。買う気はないんですけどね。見るだけならただだし。」
「ミルダケタダ。」
アルーンが合いの手を入れます。緊張がほどける一瞬です。
「この前行ったんですけど、きれいですよ。バラナシと言えば、シルクですよ。やっぱり。」
「それじゃあ・・・。」
3人揃ってシルク屋に行くことになりました。
「ナマステー。」
「ナマステー。」
「調子はどうだい?」
「いいねぇ。」
軽く挨拶して部屋に入ります。
「シルク、見せてよ。」
「よっしゃ。」
店の主人は美しく刺繍の施されたシルクの布を大量に出してきます。大きさは、60×160cm位。そして、上から順番に見せようとします。
「見るだけ?」
まず初めに彼は確認します。さすがにインド旅行者です。簡単には物事を始めさせません。
「見るだけ、OK?」
私も念を押します。
「もちろんだ。」
主人は答えます。とりあえず、確認終了。主人の手が動きます。
「これはどうだ。」
「いらない。」
「次は?」
「うーん、キープ。」
「次はどうだ?」
「これ、いいですよね。」
隣に座る日本人に話し掛けます。
「きれいですね。」
「ですよね。じゃ、キープ。」
そうこうしている間に何時の間にか彼がキープかどうか答えています。私は隣でチャイを飲んで、煙草を吸って、すっかりくつろいでいます。
そうこうしているうちに1順します。すると、主人はシルクを2枚をならべて聞きます。
「どっちが好きか?」
「こっち。」
彼は答えます。
そうこうしているうちに残り3枚になりました。主人はその3枚を紐にかけ、垂らして並べます。そしておもむろに、
「どれが欲しい?」
その段になっていると、普通は1枚欲しくなっています。そうでなくとも、「1枚くらいなら買ってもいい」という気になっています。
「いくらだ?」
ここでのこの場合の相場は、60×160の刺繍ものでUS$40〜US$60でした('89.3)。他の店のツーリストプライスよりは、幾分か安かったことは確かです。
「50ドル。」
「うーん。買った。」
お買い上げありがとうございました!
心の中で叫びます。

ほぼ毎日、ガートに出かけては日本人に声をかけ、彼らの商売を手伝いました。合計、3週間で10人以上連れて行きましたが、買わなかった人は0でした。日本でキャッチセールスが繁盛するのがよく分かります。

今だから言えます。ごめんなさい。でも、買ったのはあなたで、私は連れていっただけですから・・・。

バラナシのアセスにて。もうなくなってしまいました。

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